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お父さんがカブトムシになった話

ああ。いつの間にか秋の気配。

秋の夜長。郷愁。望郷。季節の変わり目は人を切ない気持ちにします。そんな人には、この話。

一瞬で消え去る夏に引かれた後ろ髪を毛根からぶち抜こう。

 

 

時代はバブルの後期。都市の再開発が盛んに行われた時分に東京近郊で配管会社を営んでいた父の会社が儲かっていないはずがなかった。

あと少しで弾けるバブルという時代の少し先を歩いてた私の父は、42歳という働き盛りにあたる年齢で脳卒中をし、左半身麻痺と言う後遺症を抱えて生きる運命となった。その後、父を追うように時代のバブルは弾け、時代もわたしたち家族も地獄へ落ちた。

 

 

クーラーなどあるはずもない我が家。開け放たれた家屋ではセミの節々がこすれる音が鼓膜のすぐそばまで迫った。母は仕事で不在、身体の半分もの割合をひきづって移動する父は台所にいた。夏休みでもすることがなく腹を空かせたきょうだい3人は、何かおやつはないかと父に詰め寄る。ゼリーでも食べたら、と言い放った父の目の前には、カブトムシが描かれたラベルの封を切ったゼリーの空箱が3つ、無造作に置かれていた。

 

兄の手で捕らえられ、玄関に置かれたプラスチックの籠で飼育されているカブトムシが食べているものと同じやつだ。

 

虫がうごめく音が聞こえる。じーわじーわとセミの声が脳に響く。見つめ合う親子の頬には汗がにじむ。