ゴキブリを見た。追い抜かした。すっかり肌寒くなった秋の夜、金曜日の恵比寿駅東口のロータリー横を彼は慌てて走っていた。
スーツは乱れ、ジャケットの裾口からはシャツがはみ出ていた。脚を忙しなくバタつかせ、微々たる歩みを進める。彼の様子からは焦りがありありと見て取れた。
花金だと言うのに。思ったよりも残業が長引いてしまった。会食の約束があったのに...!駆ける足を加速させる。彼女は怒っているに違いない。帰ってしまっているかもしれない。あぁ、会社でも彼女にも謝ってばかりだ!
屋外で見かけるゴキブリはやっぱりのろまだ。もはや可愛くすらもあった。
頑張れ、ゴキブリ。頑張れ、新米サラリーマンゴキブリ!