絶望

隙間風の入る家だった。暮れゆく空が今夜の冷えを予感させた。考えただけで気が重くなる。せっかく友人が泊まりに来たというのに、もてなしたい気持ちに反してそこら中に恥が散らばっていた。家中の何もかもを見られたくなかった。

 

眠り支度を整えていると、浜辺で乱暴をされた、と友人がさらりと口にした。恥をかかせるわけにはいかないので、旦那には話せない、とも。

聞き流しそうになったその一文で、思わず動きが止まる。友人の瞳を見つめる。どのような言葉を糸口にその出来事について触れてよいのかわからない。友人の言葉を引用しながら、つぶやくように問いかけた。が、友人はそれ以上なにかを語ることはなかった。

 

脳裏には数人の人物が浮かんだ。友人の親切さにつけ込んで道を踏み外したであろう人物らの馬鹿騒ぎが聞こえる。群れることで気が大きくなって道を踏み外すなど愚の骨頂であり、到底許されるものではない。眼球を押し出すような赤黒い感情が次から次へと湧き上がる。彼らを、何もなかったかのようにこのまま生かすわけにはいかない。

 

隙間風が少しでも入らないように、襖を閉めて回った。便所を利用するときなどは、臭気以外にも人ならざる存在を意識せずにはいられないだろう。友人の恐怖を思うと不憫でたまらなかった。

家にはどうして捨てられないのかわからない物が埃とともに積み上げられ、それらは溜まる一方であった。何十年と吸った埃や油で黒々とした柱と鴨居が家中の光と希望も吸い取っていた。掃除などでは落としきれないよごれが染み付いていた。

長く自分を育んだはずのその家屋に、愛すべき点が何一つとしてない。光がない。良くなっていくことが何一つ想像できない。物心のついた頃からずっと、頭を抱えて椅子にもたれている。脚には無数の何かがしがみついていた。少し歩けば、粘度の高い重たい泥に脚を取られ、数歩進むのがやっとだ。自分の脚でどこか遠くへ行けるなどとは想像もできなかった。

 

臭い便所で一人、想像していた。今夜の寒い夜を。惨めで情けない夜を。薄い布団でわずかに暖をとりながら、日が明けて、待ってもいない一日がまた始まることを。