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サバイバル・ドリーム

生をもぎ取る闘いの夢をよく見る。

先日も、そうだった。

 

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制服を着た若者がいそいそと、人によってはうんざりと気怠そうに渡り廊下を進む。

広大な駐車場の上に作られた屋外運動場と校舎を繋ぐ、クリーム色の錆びれた渡り廊下には、身を乗り出してやっと通れるほどの窓が連なっていた。その簡素な窓からは冷たい空気と西日が入り込む。途中、渡り廊下と地上をつなぐ螺旋階段も簡素だった。扉にはガラスも張られておらず、階段のはじまりと、その先の薄暗い地上駐車場が目に入る。

 

気怠そうに歩く人間の気持ちがわからない。うんざりしようと、静かな空間を引き裂いて惨劇が生まれるこの世界が変わるわけではない。

男子の後ろ姿を眺めていると、制服の身に着け方で性格まで見える気がする。お調子者にはお調子者の、真面目な人には真面目な人の着こなしがあるようだ。

ジャストサイズのワイシャツを細い腰からはみ出させた茶髪男子が、他の数人と話をしながらゆっくりと歩いている。

上下ともにオーバーサイズの制服を身にまとった小柄でやや小太りな男子。切り揃えられた黒髪を見るだけで実直な性格が見て取れた。集団行動はやや苦手そうだ。彼は足を止め、両手で顔を覆った。指は眼球を目指していた。わたしは少し先の窓から身を乗り出し、身をよじって窓から抜け出す頃にまた彼を見た。その指は両眼に深く喰い込み、血の涙を流しながら何かを叫ぶように口を大きく開いた。

 

ここもあっという間に崩壊するだろう。

 

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昼間から飲んだくれるような年配者の多い街だ。慣れきってしまえば単なる日常で、恐いもくそもない。 

光のささない薄暗い路地裏に密集した居酒屋で安酒をくらっている。手を伸ばせば二階に届きそうなほどこじんまりとした街。ガヤガヤとした喧騒は会話と喧嘩の判断が難しい。

 

酔っ払いたちの間を縫うようにして歩く。このうちの何人がまともと言えるか。あいつらが突然混ざっても、大半の人間は気付かぬまま狂気に取り込まれていくだろう。それも幸せなことかもしれない。

道端にまばらに置かれた汚いテーブルには酔っ払いたちが集い、ひしめき合って空虚を満たしている。会話の域を超えた物言いが目立つ。

喧騒に割り込むように響く大きな音。皿やグラスは地面のあちこちに砕け、テーブルはシャッターへ叩きつけられていた。

細い路地から全速力でテーブルに突進したらしい者の姿が目に入る。周囲の人間は弾かれたように地面に転がった。

 

始まったのだ。

 

室外機に足をかけ、パイプをよじ登る。異常事態だけが切り取られたようにその場に浮いていたが、酔いすらもわからぬ世界に埋没した者たちがその事態を気に留めた様子はなかった。

 

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生い茂る葉が邪魔で彼らの姿は見えない。葉の擦れる音と声から位置と近さを推測する。とにかく上を目指す。考えるまでもなく、生存の可能性が高い選択を体が勝手に実行する。捕まったらどうなるか。人間の意識がなくなるのも、人間の意識があるまま選択の自由が一切なくなるのも、御免だ。 右手の下方と左手から気配がする。上へ登りながらもゆるやかに右手に旋回する。

 

はっきりとは聞き取れないが、罵詈雑言なことは確かだ。その物言いは、捕まったらただでは済まないことを確信させる。いつ髪の毛を鷲掴みにされて捕らえられるかわからないほど、すぐそこまで迫った気配がある。ほんの片手の距離を開くために、葉を一心不乱に掻き分ける。

 

冗談じゃない。

 

いつ自分が狂気に取り込まれるかわからないこんな世界でなぜ、人間を囲おうとするのか。平穏なんてどこにもないのだから、せめてわたしのまま、最後まで逃げさせてーー

 

大木の頂点から顔を出す。レッカー車が横切る。レッカー車から垂れ下がるワイヤーを目指し、わたしは迷わず飛んだ。その瞬間、掴みかかろうとした人間の指が脚先をかすめた。

レッカー車のワイヤーを掴み、振り子の原理で安全な場所に着くことをその瞬間夢見ていた。

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