人間みんな芸能人

今の私なら、そう口走った彼の気持ちが少しわかる。

 

私はその彼とは会ったこともない。友人に又聞きした話で、聞いたのももう10年以上前だ。

 

私の友人は、高校時代の一瞬の同級生で、クラスの人間とウマが合わないと入学して数ヶ月で中退し、19歳という若さで子供を産んだ美人ヤンママだった。大学の講義の合間に原付で彼女に会いに行くと、育児の合間にその彼の話を教えてくれた。

 

昔つるんでた男友達と久々に会ったら、東京に行くつもりだと打ち明けられたらしい。芸能界を目指したいと。

 

若い年齢で人の親となった彼女は、もう20歳も過ぎたのだし、少し無謀なのではと諭そうとした。彼は「人間みんな芸能人」という言葉を残して去った。

 

当時、私たちはその話をズレた男の子の笑い話として交わした。彼女と、またね、と言い合って別れた。

 

次に彼女と会ったのは数年後、共通の友人の結婚式だった。二次会で、旦那の稼ぎが少ないので、夜にキャバクラのバイトを始めたことを聞いた。若くて溌剌とし、造形のはっきりとした整った顔と気の強さ、それとは裏腹に女性特有の気まぐれと弱さを持った彼女の人気など聞くまでもない。別の女友達は、キャバクラなんて始めたら絶対にやばい、としきりに心配していた。

 

二次会の終盤、キャバクラに来る客のパティシエが作ったサプライズケーキを高々と掲げる彼女を、私たちはテーブルの端っこから見つめた。それが、最後に彼女を見た記憶だ。

 

風の噂で、彼女はキャバクラの客に本気になり、旦那と離婚して親権も手放したことを聞いた。

 

私たちが20代半ばの頃、有名なアパレルショップの店員をしている噂を耳にした。

 

LINEの友人リストでたまたま見かけた彼女は、ますます美しく、子供を2人産んだ女性とはとても思えなかった。

 

ニートの自分にうんざりして東京へ出て以来、彼女の噂も写真も見聞きしていない。

 

大学、就活、就職、ニート、就職、ニート。環境の変化でなんとなく違えた彼女との道が、時間の経過によってどんどん広がっていたらしい。でも、スポットライトを浴びたいと彷徨ってる点は変わらない。今も昔も、人間みんな芸能人。