確か、相手は女子大生だった。
いわゆるモテそうな格好の、大きな苦労を知らなそうな。
一方の私は、少し年上だったと思う。
留年しながら命からがら卒業して、社会人になって、心身ともに干からびて退職して。引きこもり同然になった私を見かね、友人がちょっとした用事を設定してくれることがあった。
たとえば、自主製作映画のエキストラやチラシ配りだった。
私には彼らのように湧き出る情熱や意地がなく、義理もない。白々しい思いすら持っていた。だが、自分の中に僅かに残った燃えかすを弄るように、彼らに関わった。
何でも、やる時は一生懸命に。そう心がけている。
自分に分担された映画のチラシが、自分の気持ち次第で相手にプラスに届くと良い。そう願った。
100枚ほどか、もっと少なかったかもしれない。新宿の街でチラシを配った。そして、件の女子大生に遭遇した。
必死じゃん。
女子大生は友人との雑談交じりに、悪びれなく私達を指差し、率直な感想を残して去った。
ヒッシジャン。
喫茶店で知らない誰かに、コップの水を突然浴びせられるような、唐突な驚きがあった。しかし…
必死で何が悪いんだ?
と沸々と思った。体を掻き毟るような憤りはなかったが、それでも彼女の指先を折り曲げて、自分自身を省みるように、と迫りたかった。
必死な誰かの生き方を指差し、笑う権利など誰にもないのだから。