明るい灯に虫は群がる

知人女性に声をかけてもらったため、先日、4対4の合コンに参加してきました。

 

仕事だけが湯水のように発生している昨今、合コンのために仕事を早く切り上げられる訳もなく、1時間遅れて会場へ。

 

最近立て続いた狂気の酒癖から逃れるためにノンアルコール飲料で乾杯を済ませ、その後は炭酸飲料と揚げ物を端から順番に喰らう生物と化しました。

 

遅れた私に残されていたのは下座の末端席で、到着当初こそ気づきませんでしたが、隣席には正真正銘のさわやかイケメン。

 

雰囲気イケメンは世に多けれど、混じりっけなしの純正イケメンに会えることは滅多にあるものじゃない。ロマンスが起きる気配がせず、もはや清々しい気持ちでした。

 

人見知りのくせにお酒も飲まなければ、楽しい気持ちはおろか人に話しかける気力も湧きません。イケメン効果で増強した食欲に身を委ねて過ごします。

 

驚くべきはイケメンの振る舞いで、中身も素晴らしい人格なのか、すこぶる気が利き、みんなに満遍なく話題を振り、笑顔を絶やさず、誰の話も分け隔てなく聞き込んでいました。眩しすぎ。

 

人の目をまっすぐに見つめ、丁寧に質問し、きちんと返答する彼。その眩い振る舞いを見せる彼という人間の中に、本当に一点の黒点もないものか、そんな完璧な人間が存在するものなのか。

疑わしさを確信に変えるべく、彼の会話や振る舞いの端々に神経を研ぎ澄ませましたが、彼の光を受けて生じる自分の影の、その濃さばかりが気になりました。

 

どのような環境で育ち、生きてきたら、あれほど曇りない人格が形成されるのでしょうか。合コンの中で1人、際立ってまぶしかった彼。

彼のような人は、今までも、そしてこれからもずっと、まばゆい光の中を生きていくことが当然のことのように感じます。 別次元の住人には嫉妬や羨望を抱かないものだと知りました。同性だったら、もっと苦々しく感じたのかもしれません。

 

他の女性陣も、彼をまぶしく感じたのではないかと思います。顔も性格もスタイルも良く、おまけに仕事もしっかりしている。非の打ち所がないとは彼のための言葉でしょう。

 

イケメンの光を頼りにゆらゆらと進んだ合コンは、もう遅い時間だし...という彼の言葉で幕を閉じます。連絡先の交換は幹事が後ほど作成するLINEグループで行うことが決まり、お店を後にしました。幹事の希望によりなぜかお別れの一本締めを行い、私は反射的に仕事モードが再燃。また職場で会いましょうと挨拶を交わし、合コンは終わりました。

 

少し距離がある駅までみんなで移動しようという流れの中、乗り換えの都合でイケメンは会場近くの駅利用を宣言、私もその駅のほうが都合が良いので便乗を宣言すると他に続く者がおらず、イケメンとお近づきになるために出し抜こうとしているように思われたのではないかと恥ずかしい気持ちになりました。自分に都合の良い駅を選ぶという当たり前の行動にすら、イケメンは波風を立てるのです。

 

そうしてみんなと別行動となり数分間、イケメンの光を独占して右半身に目一杯に浴びました。自分までさわやかな人間になれたと錯覚できた良い思い出です。

 

イケメンとサヨナラし、目的としていた乗り換え駅に着く頃には幹事によるLINEグループが作成されていました。そのLINEグループのメンバーを確認しながら、LINEアカウントと、さきほどの合コン会場にいた人物の顔や名前の情報を照合していきます。もちろんイケメンのLINEアカウントもありました。

 

イケメンのLINEアカウントは、カバー画像が、かき氷のメロン味を思わせる光が降り注いだ、どこかのClubの写真。

ホーム画像が、薄暗い空間の中、イケメンが両腕を組みながら右口角だけで笑うニヒルな表情、肩にはヘッドフォン。

 そうです。

 

イケメンはDJでもあったのです。

 

これほどモテ要素を持ち合わせた人間と出会ったことがなかった私は、度肝を抜かれました。合コンでの振る舞い、仕事の話、趣味の話。あの段階で相当まぶしかったイケメンが、DJでもあったなんて。

 

太陽の光だと思っていたイケメンの光は、ミラーボールやレーザーの光だったのです。

 

太陽の光を目指して死ぬ虫はいないのに、人口の光に向かって死ぬ虫が多いのは自然の摂理なのでしょうか。

私は速攻で友達登録をし、またご飯に行きましょうとイケメンにメッセージを送りました。

 

しかし、光に当たって命を散らすということすらも、実は選ばれし者の特権だったのでした。とりあえず、返事すら来ません。

 

レーザーやミラーボールに近づいて死ぬ虫がいないように、分散された光にどうやって留まり続けてよいかもわからず、私はミラーボールを遠巻きに一周して怪我ひとつせずに無事に戻ってこれたという訳です。大勢の人々を躍らせるDJが弱々しい羽音を聴き取る訳もなく、翅のひとつでも残れば良いという覚悟は杞憂としてあっけなく終わりました。