夜の音

無音で過ごすと気分がどこまでも落ちていくので耐えきれずずっとお笑いのラジオを耳にしてメンタルを保っている。

イヤホンを外すと誰かがペチャクチャと小さく話している声が聴こえる気がしてもう片方のイヤホンが鳴っていないか、小さく開いた窓から近所の誰かの声か。はたまた、いよいよ頭がおかしくなったか幻聴かなどと自分の頭のほうを疑ったりもした。

真偽がわからないが、もうその話し声は止まっている。

 

従姉とルームシェアしていた約10年前。アルコール依存症の治療を受けたほうがよい段階にいた従姉が、夜に私の部屋にきて、もう夜中なんだからラジオを聴くのはやめてくれと言った。

私は部屋で無音で過ごしていたので戸惑い、事実を述べた。その返答に目を見開き、自身の幻聴を自覚した瞬間の従姉の表情をふと思い出した。

 

当時の季節が今と似ていたから思い出したのかもしれない。従姉はとても美しい人で、壊れる前も、壊れ始めてもずっと美しいままだった。今も美しいが、歪にはなった。人は一度徹底的に壊れたら何かを大きく失うのだと思う。

 

私も何かを失いかけている前触れなのではないかとすら思う。心に巣食う大きな空洞を覗く気力もでない。ふとした隙に、亡き祖母が恋しくなる。人が弱るというのはこういうことかと思う。幸せが側にあるのに、不幸にも目がくらむ。