6匹目 〜2016年下半期中間報告〜

昨日、自宅の最寄り駅の線路沿いに野生のゴキブリを目撃した。

今年の下半期だけで6匹目。わたしが彼等を引き寄せるのか、世間一般があまりにも彼等の気配に無頓着なのか?

これほど野生のゴキブリを目撃しているアラサー女が他にいるだろうか。

 

いずれも場所はバラバラで、飲食店が近くにあったわけでもない。渋谷や新宿といった雑多な街ならまだ理解できるが、静かな住宅街だったりする。

 

さらに、見た目やキャラクターもバラバラだ。 

住宅街の歩道をどんくさそうに歩いている鈍間や、 だらしないサラリーマンのように背中の羽根をはみ出させながら恵比寿駅のロータリー横を忙しくなく走るドジ、昨日は夜道で見ても黒々と光っるせっかちそうな堅物であった。

人間と一緒で、多種多様そのものだ。

 

かくいうわたしは、この先の人生であと何回衣替えをしなければいけないか、排水溝の髪の毛をあと何回取り除く人生なのかを考えてうんざりしている。

ゴキブリを目撃したときにしか筆が乗らない体質になりつつある。末期だ。

 

必要なのは、恋。ときめき。

 

5匹目の

ゴキブリを見た。追い抜かした。すっかり肌寒くなった秋の夜、金曜日の恵比寿駅東口のロータリー横を彼は慌てて走っていた。

スーツは乱れ、ジャケットの裾口からはシャツがはみ出ていた。脚を忙しなくバタつかせ、微々たる歩みを進める。彼の様子からは焦りがありありと見て取れた。

 

花金だと言うのに。思ったよりも残業が長引いてしまった。会食の約束があったのに...!駆ける足を加速させる。彼女は怒っているに違いない。帰ってしまっているかもしれない。あぁ、会社でも彼女にも謝ってばかりだ!

 

屋外で見かけるゴキブリはやっぱりのろまだ。もはや可愛くすらもあった。

 

頑張れ、ゴキブリ。頑張れ、新米サラリーマンゴキブリ!

まじヤバい

今までの29年間もずっとヤバかったけど、たぶん、最近もまじでヤバい。

 

1.職場でヤバい

社長と直属の上司との三者面談。査定目的じゃないと前置きがあったこともあり、率直な要望を述べた。会社への直近の要望は無料貸し出し図書、数年内の要望としては育児休暇の取得(現在、配偶者や婚約者どころか彼氏もいない)。

 

2.自分がヤバい

ジャンル問わず、とにかく興味を持った作品を観まくることを決意。飲みの席でたまたま話した年下青年と映画の話になり、最近感銘を受けた映画のテーマであったスカトロに関して熱弁。嗜好はないものの、わたしは食べる人生か食べない人生なら、食べる人生を選びたいと宣言。

 

3.気になってる人がヤバい

昔働いていたバーに寄り道した際に、隣の席にいた人間。始終ニコニコしていて、八方美人かよ気に入らねぇと思っていたところ、とんでもないモンスターだと判明。

物理、映画制作、CG技術と変遷を経ながら、自分が本当に情熱を持てる表現を模索していたところ、爆発・崩壊の美学に着地。これまでの知識を駆使し、最高の爆発・崩壊シーンのために日夜、物理の計算とプログラミングに向き合っている。世の中の素晴らしいもの・素晴らしくないものはすべて、彼にとっては爆発の破片に過ぎない。

 

まじヤバい。世の中は素晴らしい。

ポケモンGO

先輩2人とともに客先に訪問した帰り道、会社方面に向かうバスの座席に腰をかけるとすぐ、2人はiPhoneの操作を始めた。

仕事のメールチェックかと思い押し黙ると、やがて2人はポケモンGOについて会話を始めた。iPhoneを確認し続ける理由はゲームだった。

確かに今日の客先で、ラプラスを捕まえにお台場に行ったと担当者が口にした際、僕も捕まえに行きましたと食い気味に話していたけれど。

 

ポケモンGOへの情熱をすっかり無くした私は先輩2人の現在のレベルを聞き、少なくても10レベルは差が開いていることを自己申告しつつ、継続できるモチベーションについて聞いた。

 

2人とも、完全なるコレクター魂で続けているらしい。先輩の1人がポケモン図鑑を見せてくれた。図鑑の前半、載っていないポケモンは皆無だった。

後半になるとポツポツと図鑑に穴が見られた。その中に1つだけあった、黒い影のみが表示されている箇所について質問すると、捕まえ損ねたポケモンは図鑑にそのシルエットの影だけが表示されるとのこと。

ラプラスだった。お台場まで行ったものの、捕まえられなかったらしい。他人の動きを頼りに、できる限りの場所を回ったが、捕り逃したのだとか。

先週末、久々に雨があがって快晴の中、iPhone片手にお台場まで赴き、何も捕まえられなかった38歳男性の姿が浮かぶ。

 

ラプラスの話をしながら先輩はときどきスマホの画面に視線を落とし、指をくねらせた。画面の中の先輩はイーブイを捕まえようとしていた。

 

イーブイは、捕まえるときに最も心ときめくポケモンのひとつだ。まあるい瞳、ふっくらとしたボディ。やわらかなジャンプ。そよぐ毛並み。威嚇したときの目つき。すべてが愛くるしい。絶対に逃したくないポケモンだ。

 

先輩は週末にお台場で逃したラプラスの話をしながら、片手間でイーブイを捕まえようとしていた。モンスターボールを投げる前にボールを回転させると捕まえやすくなる、という小技も慣れたもの。その手つきは事務的だった。

 

「先輩にとって、イーブイを捕まえることは作業ですか。」

 

思わず聞いてしまう。

 

「まあね。」

 

先輩は当然とばかりに答えた。もう1人の先輩は私の目も見ずに「そうそう」と後押しした。

 

「なんでですか?イーブイ、こんなに可愛いのに。捕まえたら嬉しくないですか。」

 

私は食いさがる。

 

「俺ら、そういうふうに見てないから。」

「ぶっちゃけ、『アメ』としか思ってないし。」

「ただの1匹。」

「経験値上がるし。」

「名前とかもどうでもいい。」

「ネズミが出たとか、カニが出たとか、そんな感じ。」

 

私は言葉を失った。確かに、コラッタもクラブもありがたいと思ったことはない。むしろ、クラブなどは気持ち悪いとすら思っていた。それにしても、名前くらいは認識している。

 

先輩の1人が、ポケモン図鑑ピカチュウを見せる。後ろ姿のピカチュウが、鍵シッポを揺らしながら雷を落とした。その猛々しい様子と似合わない後ろ姿が、なんとも愛くるしい。

 

ピカチュウの姿を見て、カワイイとか? ないわ〜。」

 

かつてポケモンを始めたばかりの頃、最初に出現するゼニガメフシギダネヒトカゲを3回無視するとピカチュウが出てくると得意そうに教えてくれた先輩。あのときのピュアな気持ちはどこに行ってしまったのか。

 

経験値が上がる

アメとしか思っていない

名前とかもどうでもいい

 

かつてポケモンマスターを目指したこともあった私は、わからなくもないと頭の半分で理解しながらも、

この男どもは絶対に許せないと、もう半分の女の感情が思う

世界最小、祭り囃子

会社から駅までの道程でイケメンサラリーマン3人衆を食い気味に追い抜かした頃、小さな異変に気が付いた。

 

ほんのり荒い鼻呼吸。息を吸うときに毎回ピーと小さな音が聴こえるではないか。

 

意識を集中させて数回ほど呼吸を確かめると、これはしばらく鳴ると思った。ひさしく聴かなかったこの音。私は29年の間に何度この音を鳴らしただろう。幼い頃はこの音が可笑しくて、聴こえるたびに楽しい気持ちになったもの。何も感じなくなってから何年経つだろうか。

物思いに耽っても、私の心はかつてのように踊らない。

 

ピーィ

 

ピーィ

 

鼻笛だけが弱々しく儚い音を鳴らしている

 

ピーィ

 

ピーィ

 

 

そんなに鳴ったった何もしてあげられないよ。踊らないんだもの、心が。

 

ピーィ

 

ピーィ

 

カッ カッ

 

前を歩く大きな背中のリクルートスーツの女性が、パンプスで力強く私の鼻笛に太鼓を打つ

 

ピーィ

 

ピーィ

 

カッ カッ

 

ふんどし姿の力持ちが、二本のバチで威勢よく太鼓の縁を弾く

 

ピーィ

 

ピーィ

 

カッ カッ

 

ピーィ ピーィ カッカッ

ピーィ カッカッ  コッコッ

駅が近づくにつれ太鼓の種類は増えていく

 

遊びに夢中ですっかり暗くなった夏の夜、忙しなく回転する自転車に両足で体重を預けながら児童会館を横切った。

磨りガラスからは黄色い光と祭り囃子の練習音が漏れ、私は夕飯を目指して暗闇の中を突き進む。

生きものと気配

道を歩いているとき、野生のゴキブリを見かけることがある。

今年の夏はとくによく遭遇した。今夜で4度目。睨みながら慎重に距離を取る。三歩離れればあとは大抵忘れてしまう。外で見かける野生のゴキブリは愚鈍でのろまにさえ見える。かれらは屋内にいるときに、その存在感が最も発揮されるようだ。

床や壁、室内のどこであろうと、黒光りしたその姿を捉えた脳内は瞬時に異常事態と判断して警笛を鳴らす。彼らは室内ではとくに機敏に見え、脳内の司令塔はその俊敏な生き物に対処しようと画策する。その多くは上手くいかず、すり減った心身は彼らを異様な生き物と再認定し、一刻も早く忘れたいと思う。

しかし、室内でゴキブリと対峙したとき、すぐにその出来事を忘れることはできない。取り逃がした場合だけでなく、きちんと殺した場合でさえも、ゴキブリを1匹見かけたら30匹はいると言われるように、まだ家の中にいるかもしれないゴキブリの影に怯えることになる。

それだけ、ゴキブリが室内にいるということは大変なことなのだ。だから、ゴキブリが室内に出た瞬間に人は絶望的な気分になる。目の前の1匹のその背後に、膨大な生き物の気配を読み取る。多くの場合、人は怯む。

その素早い黒々とした生き物が背中を光らせて目の前を横切ろうとした瞬間に、背中の羽からクシャッと握りつぶす別の生き物を見た。私のおばあちゃんだ。死骸をゴミ箱に捨て、それまでの時間に戻った。初めて見たときはまだ幼く、茫然とした。

 

当時、世の中にはどうにもならないことが多すぎるとひどく悩み、恨んでいた。貧乏が諸悪の根源と考え、貧乏を生み出す家庭環境を恨み、しかし子供の力ではどうすることもできずにいた。ボロい家に這い、巣食う虫たちの気配に怯える日々だった。その中にゴキブリもいた。

気持ち悪くて怖くて、きょうだいで身を寄せ合って怯えた。そのうちに姉が、ゴキブリを降臨させることができると豪語するようになった。何時にゴキブリを降臨させると宣言し、超音波のような謎の声を発した。兄と私は怯えながらも、姉にそのような特殊能力があるのかとワクワクした。失敗もあったが、成功のほうが多かった。降臨の儀式を行っても、どこから出てくるかまではわからない。たとえばブラウン管テレビの後ろから壁を駆け上がるゴキブリの姿を捉えては、恐怖と感嘆の入り混じった私達の叫びが家に響いた。

 

私達きょうだいが、恐怖のあまりにコントロールしようとすら試みたゴキブリという存在を、おばあちゃんは呼吸を乱すこともなく片手で握りつぶす。

脚を崩して座った姿勢を支える片手、そのもう片方の自由な手で流れるように掴み、殺した様子を見て質問をする気も起きなかった。

おばあちゃんを育てたあの島にはたくさんのゴキブリがいたのだろう

気持ち悪いなどと言ってられなかったのだろう

蚊を殺すように、ゴキブリも殺してきたのだろう

 

私は今、「作家の猫」という本に魅せられている。さまざまな猫を愛した作家たちの様子を記した文章に、私の懐かしい記憶が立ち上る。それは、素手でゴキブリを殺したおばあちゃんの姿だったり、虫の蠢くあのボロい借家だったり、そのボロ家に寄り付いてくれた野良猫らだったりする。

隔離された島

私達は許可なくその島から出てはいけない。

大半の人間が島から出ることなど考えもしなかったし、そのほうが幸せだったのかもしれない。小さな島の崖の際まで使って建てられた巨大な高校は要塞のようだった。

 

島を出たいと願った瞬間から、闘いは始まる。

 

木村カエラ北川景子。美しい女はとくに、囚われの身となり、建物の奥で幽閉されて慰みものにされた。 

誰にも囚われないわたしたちは、それでも不自由から逃れようと、島と外を繋ぐ無機質な橋を目指してハイウェイをひた走る。

逃亡失敗はほとんど死を意味した。追う者も追われる者も譲らず、分岐路で大きく引き裂かれた。互いに犠牲者が出た。わたしたちは逃亡に失敗した。

 

次に、大量の風船で島からの逃亡を図った。小さなベンチに仲間を1人乗せ、カラフルな風船を次々と括り付けた。

風船の影がわたしたちを覆い尽くす頃、小さなベンチは宙に浮いた。風船の影を見つけた追う者がわたしたちの邪魔に入り、互いに撲殺せんと混戦した。

その隙に彼女は飛んだ。が、無事に逃亡できたかまでは知らない。

 

 

 

みたいな夢を見た。暴力シーンがリアル。朝の5:50にこの夢から覚めて絶望し、内容をメモに起こし、また眠った。

 

 

---------------------------------------------------------------------

時に、バイク.

学生,とらわれた

島? バイクや

ふうせんで  仲間をころす

キムラカエラ 北川景子